第1話|サウナだけが、本音を許してくれる

管理職うんちく

第1話|サウナだけが、本音を許してくれる

──関東のとある市、とあるチェーン企業の一店舗にて

■ “主任”という肩書きをロッカーにしまう瞬間

関東のとある市にある中規模チェーン企業の一店舗。その店で僕は「主任」という肩書きで働いている。
スタッフ育成、店舗管理、顧客対応、トラブル処理、数字管理……。肩書きほど大げさではないけれど、毎日、現場の“空気”を回すのが僕の役目だ。

そんな僕が、肩書きを完全に脱ぎ捨てられる唯一の場所。それが、会社近くにあるサウナ施設。
ロッカーに服と一緒に、主任という肩書き、責任、見栄……ぜんぶ詰め込んで扉を閉める。
サ室の暗がりに座ると、不思議と「本音専用モード」が起動する。

■ 蒸気の中でだけ、10年後の自分がちらつく

ある日の夜、ととのい椅子に沈み込みながらふと頭に浮かんだのは、ずっと先送りにしてきた将来のことだった。
宮城で1人暮らしをしている母。年々、帰省するたびに小さくなっていく後ろ姿。
「母がまだ動けるうちに、同居できる準備をしたい」
それが、ずっと胸の奥に置きっぱなしになっていた“重い石”だった。

でも僕は、今も関東で働き続けている。店のことは嫌いじゃないし、スタッフも可愛い。
けれど、カレンダーは容赦なく進んでいく。

「55歳くらいで宮城に移らないと、間に合わないんじゃないか?」
そんな思いが、湿度と一緒にじわりと身体に沁みてきた。

■ キャリアの選択肢が“蒸気”のように揺れる

主任として現場をまとめ続けるのか。
支店長を目指すのか。
副支店長の道を狙うのか。
それとも、思い切って「教える」仕事に転じるのか。

ひとつ選べば、ひとつを失う。
それを分かっているから、選べない。
蒸気が立ち込めるサウナ室で、視界がぼんやりと揺れるのと同じように、
僕のキャリアも揺れ続けていた。

■ それでも、今日もサウナに来る理由

仕事の悩みも、将来の不安も、家族のことも。
普段は胸の奥に押し込めて働いているけれど、
サウナ室はそれを強制的に浮き上がらせてくる場所だ。

ただの入浴施設じゃない。
僕にとっての人生のセーブポイント
ここで本音を取り戻して、また次の日、主任として働く。

そうやって続けてきた日々が、
これから僕が選ぶキャリアの方向へ、少しずつ染み込んでいくのだと思う。

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